比推力を理解する

ロケット工学

ロケット工学において最も重要な用語といっても過言ではないといえる比推力

ロケットの設計における最重要パラメータです。

しかし,この用語の意味を調べようとすると各Webサイト・書籍によって様々な意味の解釈がされており,初学者が比推力の意味を理解するのは意外と苦労します。

そこで2つの視点から比推力の意味について解説を行います。

Point

比推力の意味

  1. 比推力は単位時間・単位重量当たりに発生できる推力
  2. 比推力とは単位重量当たりに単位推力を発生されられる秒数

比推力の定義

まずは比推力の定義を簡単に解説します。

推力を\(F\),燃焼時間\(t\)秒間に発生する総推力を\(I_{t}\)とすると以下の式で表すことができます。

$$I_{t}=\int_0^t F dt\tag{1}$$

また,比推力は単位重量当たりの総推力と定義することができます。

$$I_{sp}=\frac{I_{t}}{mg_{0}}\tag{2}$$

ここで,燃焼中ずっと推力\(F\)を一定に発生し続けているとすると

$$I_{t}=Ft\tag{3}$$

式(3)を式(2)を代入すると

$$I_{sp}=\frac{Ft}{mg_{0}}=\frac{F}{\frac{m}{t}g_{0}}=\frac{F}{\dot{m}g_{0}}\tag{4}$$

となります。比推力\(I_{sp}\)の単位は[s]となります。

また,有効排気速度\(c\)を用いると

$$I_{sp}=\frac{c}{g_{0}}\tag{5}$$

と表すこともできます。式(5)の導出は有効排気速度に関する説明が必要となるためここでは省略します。

比推力はロケットエンジンの燃焼効率を表し,比推力の値が大きいほど燃焼効率がよく,ロケットエンジンとしての性能がよいということになります。

なぜ比推力は理解しにくいのか?

比推力はロケットを設計するうえで最も重要なパラメータの1つですが,なぜ理解しにくいのでしょうか?

それは,比推”力”と呼んでいるのに単位は[s]だからです。

これが初学者が混乱する要素だと思います。

しかし,混乱する必要はありません。単位が[s]であることは比推力の本質を理解するうえでどうでもいいことです。

たまたま比推力の定義を決めたら単位が[s]になった。という認識で大丈夫です。

ここからは比推力とは具体的に何を示す値なのかについて,その本質を解説します。

比推力は何を示す値なのか?

比推力の式をもう一度示します。

$$I_{sp}=\frac{F}{\dot{m}g_{0}}\tag{4}$$

この定義式をよく見てみましょう。

\(\dot{m}g_{0}\)は1秒間に消費される推進剤の重量を示しています。

よって,比推力とは1秒間に消費される推進剤でどのくらいの推力が発生できるかを示す値です。

また,推力を1秒間に消費される推進剤の重量で割っているため,単位時間・単位重量当たりに発生できる推力を示す値と言うこともできます。

つまり,比推力の本質は推力なのです。

単位は[s]ですが本質は推力です。

比推力は何を示す時間なのか?

比推力の本質は推力です。

しかし「単位は秒じゃん!」とモヤモヤが残る人もいると思います。

単位が[s]なのはたまたま計算したらこうなった程度の認識でよく,単位を[s]にするために標準重力加速度\(g_{0}\)が分母に加わっているのだと考えられます。

比推力の意味は1秒間に消費される推進剤に対してどのくらいの推力が発生するかを示す値です。

とすると本来分母の\(g_{0}\)は必要ないはずです。

単位が[s]になるから慣習的にいれておこう,程度のものだと思われます。

以上のことを頭に入れつつ,比推力は何の時間を示すのか無理やり結論を出してみようと思います。

比推力の定義式(\(I_{sp}=\frac{F}{\dot{m}g_{0}}\))に\(F=1[N]\)を代入します。

$$I_{sp}=\frac{F}{\dot{m}g_{0}}=\frac{1}{\frac{m}{t}g_{0}}=\frac{t}{mg_{0}}\tag{6}$$

式(5)より比推力は推進剤の重量に対して推力1Nを発生させるために必要な秒数を表しています。

つまり,比推力とは単位重量当たりの単位推力(1N)を発生させるために必要な秒数を示します。

この解釈ならば単位が[s]であることが理解できると思います。

参考文献

・ロケットエンジン,中村佳朗 監修/鈴木弘一 著

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