ミサイルの操舵

ミサイル工学

目標に向かって撃墜・着弾するためにミサイルを操舵する必要がありますが,ミサイルの操舵方法は主に3つあります。

そこで3つの操舵方法について解説を行います。

Point

ミサイルの操舵には以下の3つがある。

  1. 空力操舵:空気の力を利用してミサイルを操舵する方式
  2. TVC(Thrust Vector Control):ロケットエンジンの噴射する向きを変えることでミサイルを操舵する方式
  3. サイドスラスタ:ロケットエンジンとは独立したガスジェネレータまたは小型のロケットモータでミサイルを操舵する方式

ミサイルの姿勢角

図1 ミサイルの機体軸と姿勢角

図1のように機体の機種方向を\(x\)軸,右翼側を\(y\)軸,下方向を\(z\)軸とします。このような軸を機体軸といいます。

ミサイル・ロケット・航空機はロール・ピッチ・ヨーの姿勢角を制御することで操舵を行います。

操舵方式の比較

ミサイルの3つの操舵方式を比較した表を以下に示します。

表1 ミサイルの操舵方式の比較

操舵方法①:空力操舵

空力操舵は空気の力を利用してミサイルを操舵する方法です。

飛行機でも用いられる最も主流な操舵方式です。

ミサイルの操舵翼を使用して,機体のロール・ピッチ・ヨーを変化させます。

空力操舵は動圧に依存します。動圧とは単位体積当たりの運動エネルギーのことです。よって動圧\(Q\)は以下の式で表されます。

$$Q=\frac{\frac{1}{2}mv^2}{V}=\frac{1}{2}\frac{m}{V}v^2=\frac{1}{2}ρv^2\tag{4.1}$$

式(4.1)より空気密度または速度が大きいほど動圧\(Q\)が大きくなることがわかります。

よって,空気密度が高い低高度またはミサイルの速度が速いときに空力操舵は有利となります。

逆に,高高度の領域やミサイルの速度が遅い燃焼開始直後などは空力操舵が効きません。

以下のグラフは国際標準機構(ISO:International Standard)によって定められている国際標準大気(ISA)です。

図2 国際標準大気

環境により使用できない場面が存在するということが空力操舵のデメリットとなります。

また,機体が大きな迎角で飛しょうしているときは操舵翼が失速してしまうため,空力操舵が効かなくなります。

そして,空力操舵は3つの操舵方式の中で機体応答性が最も遅いといった特徴もあります。

操舵方式②:TVC(Thrust Vector Control)

図3 ジェットタブ式TVC(引用:https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2020/poster/kenkyu_07.pdf)

TVC(Thrust Vector Control)は推力方向制御ともいい,ロケットエンジンの噴射の方向を変えることにより,機体の制御を行う方式です。

TVCの方式としては図3のように,噴流を遮蔽することで推力の方向を変化させる「ジェットタブ式」があります。

また,ロケットエンジンをジンバル機構によって支え,ジンバルの支点まわりに首振り運動をさせることにより推力の向きを変える「ジンバル方式」などもあります。

推力そのものの向きを変えるため,空力操舵に比べ大きな旋回加速度を得ることができます。

TVCは噴射している限り制御ができるので,空力操舵のように環境によって使用できないということはありません。

機体応答性も空力操舵より優れています。

また,空力操舵では失速してしまうような大迎角時でもTVCならば機体制御が可能です。

TVCを使用することで,トリム迎角を増大させることができるため,より高高度を飛しょうできるようになります。

ただし,燃料を全て消費してしまうと使用できなくなってしまうというデメリットがあります。

TVCは主にミサイルが低速の時に使用します。

操舵方式③:サイドスラスタ

図4 ガスジェネレータ式のサイドスラスタ(引用:https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2020/poster/kenkyu_07.pdf)

サイドスラスタはロケットエンジンとは独立したガスジェネレータまたは小型のロケットモータによって噴射することで機体を制御する方式です。

TVCと同様,動圧に依存せず大迎角時でも旋回加速度を得ることができます。

TVCとは違い大きな旋回加速度は得られないものの,機体応答性が高いのが利点です。

そのため,対空ミサイルでは即応性が求められる終末誘導時の高高度のときに使用されます。

参考文献

  • 宇宙ロケット工学入門,宮澤政文[著]
  • 防衛技術選書 兵器と防衛技術シリーズⅢ① 航空装備技術の最先端,防衛技術ジャーナル編集部 編

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